「“很”【hěn】は訳さない」 — 中国語を勉強する多くの方が一度は聞いたことがあるルールだと思います。一方で、訳す時もあったり、細かいルールもあったり、少し“やっかいな”語ではあります。
このページでは、中国語初級者の方で(或いは、場合によっては中級者の方でも)、既に1度“很”を学んだことがある方向けに、また “很” について、「どうもわかりにくい」と思われる方、ちゃんとルールを確認したことがない方、ルールを忘れてしまった方など向けに、 “很” のルールを3つのポイントにまとめました。
訳すのか、訳さないのか。
もし訳さないなら、「とても」というあの訳はいったい何なのか。
このページをお読みいただき、“很”に対する ❝モヤモヤ感❞ が取れれば幸いです。
目次
ポイント1【読む/訳し方編】
結局 “很” は訳すのか訳さないのか
👉 訳さないのが一般的(たまに訳すこともあり)
※ 但し、これでは、多くの方にとって、何の参考にもならないと思いますので、
この後、これを更に深堀りして解説していきます。
例 很好【hěn hǎo】
訳・意味 「良い」(たまに「とても良い」と訳す)
“很”は 元の意味が退化し、意味が消えつつある語です。
元々「非常に、たいへん、ずいぶん、とても」などと訳し、程度がはなはだしいこと(=程度が大きいこと)を表すのが “很” 。例えば “ 很好 “ なら、“ 好 ” (良い)の程度がはなはだしい、つまり「とても良い」という訳・意味になるわけです。その程度が大きい、凄いことを表します。
現在ではこの機能・意味がほとんど消え、単に、文を整えるための接頭字(かざり、おまけ)のようになり、訳さないことが多くなっています。尚、
この場合(=本来の機能や意味が消えている場合)、
“很” は軽く発音されるのが特徴です。
例文を見てみましょう。次の2つの文をご覧ください。
・职员很多。【Zhíyuán hěn duō】
・职员多。【Zhíyuán duō】
2つの文は、意味上、特にちがいはありません。(※訳は共に「職員は多いです。」)
まずここでは、「“很”は普通訳さない」ということを押さえてください。特に、単独1文中で “很” が登場する場合(例えば、职员很多。のような文の場合)には、まず普通は「訳さない」と考えてください。
一方、たまに訳す場合もあります。
以下のような場合です。
・例えば中国語を学ぶ教材など、日本語訳がついていて、初めから “很” に「とても」などのように意味が与えられている場合
→ この場合、“很” の本来の機能(=「程度がはなはだしい」ことを表す機能)が活きています。その場合は、教材に従って “很” に訳をつけて扱ってください。当たり前ですし、何も問題ありませんね。
・前後の文脈から「訳す」ことが判断できる場合(判断できない場合は訳さなくて良い)
→ これは具体例がないと説明しづらいのですが(文章が長くなるので、具体例は省略させていただきますm(__)m)、文章の場合、前後に文がある訳ですが、それを読むことで、 “很” を「訳す」と判断できる場合は訳してください( “很” の本来の機能が“活きて”います)。
文章中での “很” は文脈や流れでか、 “很” を訳すか訳さないか、自然に判断できるはずです。またそれを意識せず読める場合がほとんどでしょう(あなた自身も全体の文意をとることに意識を向けていて、 “很” 1字にこだわらないかもしれませんし )。文章の書き手(筆者)は読み手(読者)に意味がわかるように、伝わるように、たいてい1語1語を選んで書いていますし、 “很” を訳すかどうかは、普通は文脈や流れでわかり、気にならないはずです。書き手(筆者)が「程度を強調したい」と思う場合、敢えて別の程度副詞(=“很”と同様の機能を持つ語; “挺”、“怪”、“非常”、“真”、“相当”、“太”など)を “很” の代わりに使い、程度の大きさを明確にする可能性もあります。
いずれにせよ、あなたが前後の文脈で「“很”を訳す」と判断できる場合は、「とても」と訳してしまって構いません(文章を流れで読んでいれば、自然にそうしているはずです)。もし、訳すか訳さないか迷った場合には、“基本”に立ち返って訳さないのもありです。元々訳しても訳さなくても、それほと大した語ではありません。意味が変わるわけでもなし。程度の大きさしか表さない語です。読み手(読者)が迷うぐらいではっきりしない場合は、その部分は、文章全体の中で大して重要な部分ではないはずですから。
ポイント2【聞く話す/会話編】
発音・会話の世界では、“很” はまだまだ現役!
👉 “很” にアクセントを置いて、強く発音すると「とても」という意味を表せる
“很” を強く発音することで、 “很” 本来の機能や意味を表すことができます。例えば、“很大”【hěn dà】なら、 “很”【hěn】を強めに発音します。但し、「強めに」と言っても、四声(しせい)ではありませんから注意してくださいね! “很大”【hěn dà】 なら、あくまで音が大きく高いのは “大” の方です( “大”よりも “很”を強く発音したら少しおかしいです) 。 “很” は第三声なので、当然音は第一・二・四声よりも低くなります。 “很” を「強めに」と言うのは、あくまで軽く発音する普段の “很” (=“かざり”の “很” )よりも強く発音するという意味です。でもそれほど難しい言い方ではありませんので、一度コツさえつかめば、簡単なルールです。“很” を強く発音すれば良いだけですから!
「聞く」場合(=リスニング)の場合、相手が “很” を強く発音したら、“很” は「とても」という意味で使われています。本来の程度強調の機能が使われています。
これら「言う・話す」と「聞く」場面で “很” が本来の役割で使われることは今も多いです。「読み書き」に比べ、”会話の世界” では、 “很” はまだまだ「現役」で活躍しています。
ポイント3【書く/作文編】
“很” を使う注意点、 “很” を付ける時・付けない時
自分で中国語で文を書く時、 “ 很 ” を使う時の注意点として、「“ 很 ”を使う時/使わない時の区別」など、多少ルールがあります。ここでは、3点ほど紹介します。
ルール① まず、先ほどのポイント1の最後の部分で説明したことと同じことが言えます。つまり、
👉 “很” に本来の機能・意味を持たせたい時は、読み手にそれが伝わるように文脈や文章の流れに注意する
または “很” を避け、他の程度副詞(“挺”、“怪”、“非常” など)を用いる
自分が書き手の時、“很” に本来の意味や役割を持たせたい場合は、何らかの工夫をして、読み手が気付きやすくしたり、わかりやすくしたりすることが必要です。 わかりやすい流れや文脈がないと、読み手はあなたが意図したようには “很” を読まない可能性があります。読んで、「 “很” は“とても”と訳す方が自然だな」と読み手がわかるような文章にしなくてはなりません。
また、これも先程と同様ですが、敢えて他の程度副詞を使って、「程度が大きい」ことを確実に表現するのも良いでしょう。尚、上記にあげた程度副詞は、挺<怪< 很<非常の順に程度が強くなります(参考まで)。
ルール②
👉 形容詞述語文の肯定文では “很” を付けることが多く、否定文・疑問文では付けない
「形容詞述語文」とは、形容詞が文の述語として使われる文です(例:职员很多。;この文は主語が “职员” 、述語が “很多”で、“多”は形容詞) 。一般的に形容詞述語文では、“很” は肯定文において使われます。否定文や疑問文では使われません。下の例文で確認してください。
「形容詞述語文」において “很” の付く/付かない
‣肯定文 → 付く
例 工作很忙。
‣否定文 → 付かない
例 工作不忙。
‣疑問文 → 付かない
例 工作忙吗?
‣疑問文の答えの文 → 付く
例 很忙。(※肯定文の1つと考える)
※あくまで一般的な場合であり、例外はあります。“职员多”、“这个大” のように “很” がなくても文が成り立つ例も多くあります。
ルール③
👉 形容詞述語文の述語部分の形容詞が、「短音節形容詞」の場合、“很” が付きやすい。
例 他的房间很大。【 Tā de fángjiān hěn dà】「彼の部屋は大きいです。」
「単音節形容詞」とは1文字の形容詞(“大”、“近”、“好”、“忙”など)のことで、“很” はその前によく付く傾向があります。但し、2音節(=2文字)以上の形容詞にも “很” は付きます。上の例文は形容詞 “大” が述語の形容詞述語文ですが、「単音節形容詞」“大” の前に “很” が付いています。この例文においても、“很” は本来の働きをしておらず、“かざり”として置かれています。
ほかにも、「 “很” を付けられない形容詞の存在(“错”、“温”、“广大”、“亲爱”、“永久”ほか)」など細かいルールはありますが、都度、臨機応変に対応する形で良いと思います。
その他(補足)
“很” は副詞として修飾する語の前に置かれ、後の語を修飾します。一般的に 形容詞を修飾するイメージが強いですが、動詞、助動詞(中国語では「能願動詞」と言う)、その他も修飾します。
- 形容詞
・ “大”(大きい)
・ “近”(近い)
・ “聪明”(賢い)など - 動詞
・ “喜欢”(好きだ)
・ “了解”(知っている)
・ “有”(がある) - 助動詞(能願動詞)
・ “能”(できる)
・ “会”(できる)など
まとめ
很【hěn】 : 程度副詞。形容詞などの前に置き、本来はその語を修飾し、程度が大きいこと、はなはだしいことを表す(=「とても」などと訳す)。現在は本来の機能・意味が消え、ただの“かざり”となっていることが多い(その場合、訳さない)。
「 “很”を訳す時/訳さない時」やその他の “很” の少し “やっかいな”ルールについて
“ 很 ”の3つのポイント
- 「読む」時は、一般的に訳さず、“かざり” (発音は軽く)。“这个大” も “这个很大” も同じ意味。程度の差はない。たまに本来の働きをし、訳すことあり。
- 「話す」時(会話)は、今も本来の働きをすることが多い(発音は “很” にアクセントを強く置く)。
- 「書く」時は、“很” に本来の働きを持たせるなら、文脈を整える。或いは“很” 以外の語で代用する。
「形容詞述語文」の肯定文、「単音節形容詞」の前、で使うことが多い(必ずではない)。
これらで使われる場合、“かざり” が多い。
「まとめ」ても、やはり複雑な語ですが、少しでも知識の整理のお役に立つなら幸いです。