0.はじめに
このページで使用している「新HSK」という言葉は、当初2022年3月に変更が予定されていた新制度のHSKを指します。現行(2022年5月時点)のHSKのことではありませんのでご注意ください。(※前回2010年のHSKの大幅リニューアルの際も「新HSK」という言葉が使われ、その名残で、現在も現行HSKを「新HSK」と表記しているケースが、ネット上などで見られます)。
また、HSKは数字が大きくなるほど高い級になります。1級は一番低い級、6級は一番高い級になります。このページでは、1級~6級と普通書くような場合でも、このページでは「6級~1級」のように、左に高い級、右に低い級(高い級~低い級)を記載しますので、少し見づらいかもしれませんが、ご容赦ください。
目次
いつから変わるの? <新HSKへの変更時期>
👉 未定であり、また現状不明です(2022年5月時点)
※ 当初2022年3月の変更予定でしたが、従来制度のまま今も試験が実施されています。この遅れについてや、単なる遅れなのかそれとも「新HSK」導入そのものが中止になったのかなどについて、中国側HSK運営組織から何も発表や情報の提供がありません。昨年(2021年)以来、何も情報がないので、2021年12月に試験運用が予定されていたのですが、これも実際に行われたのかどうか分かりません。日本側HSK運営団体も中国側からの連絡待ちの状況のようです。
以下は、昨年の報道(発表)の記事のリンクです。
(2021年4月 HSK公式Twitterの発表、現時点では最新の情報)
↓↓↓ 汉考国际CTI 2021年4月21日
https://mp.weixin.qq.com/s/JmWirdtSOMK4GenuVQLx7w
↓↓↓ 中華人民共和国教育部 2021年3月31日
http://www.moe.gov.cn/jyb_xwfb/gzdt_gzdt/s5987/202103/t20210329_523304.html
一方、今後遅れて変更が実施されることになっても、
日本で導入されるのか、導入されるならいつからなのか、まだ何も情報がありません。
つまり、「新HSK」が始まるとしても、それが中国国内のみの導入に留まるのか、日本など中国以外の各国のHSKで、中国同様「新HSK」が実施されるのか、まだわかっていないのです。これについても日本側HSKには情報がないようで(或いは情報を公開していないので)、私たち外部の人間にとっては、確率は現時点で五分五分です(あくまで参考までの情報ですが、現行の1つ前のHSK制度では、11級~1級のうち、11~9級は中国国内のみでのみ実施される試験でした)。
もし日本や各国で、中国同様「新HSK」が導入されるとしても、その時期は不明です。中国と同時スタートなのか、それとも中国より遅れて後からスタートするのか。
ちなみに、日本と中国のHSKは同一の日に試験が行われているわけではありません。両国とも試験自体はほぼ毎月1回実施されていますが、実施日は必ずしも一致しません。それぞれの国で実施日が決められているようです。2022年3月のHSKは、偶然中国と日本で同日に開催されました(3月26日)。日程だけ見れば、「新HSK」を ❝ 日中同時スタート ❞ できましたが(どうでも良い外野の勝手な期待・憶測です)。
一方、中国に留学している方・する予定、滞在・居住されている方・する予定でHSK受験をお考えの方にとっては、時期が多少遅れることがあっても、中国でこの「新HSK」の導入があるのかないのかは気になるところだと思います。
先ほど少し触れましたが、正式導入に先駆けて2021年12月に ❝ 试考 ❞ なるものが中国で行われるとされていました。何らかの形で、導入に先駆けてシステムの「試験運用」か何かが行われる予定であることが発表されていました(詳細は不明)。
再び時期についての話題ですが、中国では2月に春節(旧正月)があり(年によって1月に春節がある年もあり。2022年の春節は2月1日)、足かけ約1か月間の「年末年始ムード・ペース」を経る為、2月中は中国でHSKも行われません。3月はいわばHSKにとっての「新年幕開け」の月であり、「新HSK」もその新年1回目の試験から同時にスタートされていれば区切りが良く、また格好もついたと思われます。
下記は今年(2022年)のHSKの年間実施予定(カレンダー)のリンクです(中国側・日本側それぞれのHSK運営組織の公式サイト)。日程の情報のみで、「新HSK」について新たな情報はありません。
◆ HSKテストスケジュール(中国国内、公式実施機関による会場試験)
※ほぼ月1回実施
↓↓↓ 2022年HSK試験日程(中国国内)
◆ HSKテストスケジュール(日本、「HSK日本実施委員会」実施による会場試験)
※月1~2回ペースで実施
↓↓↓ 2022年HSK試験日程
以下は、昨年の中国側の公式発表を基にした内容です。
どう変わるの?「新HSK」とは?
主な変更点(変更内容のポイント)
最大のポイント(最大の変更点)は、以下の2点
- 9~7級の新設(これまでの最高級は6級。更にその上に、3つの級が新設される)。
※ なお、従来の6~1級の試験については、当面の間変更なし。これまで通りの実施。 - 9~7級で、『スピーキング』、『翻訳』能力を測る問題が新設される可能性。
※ あくまで全体的な指針・方針が出されただけで具体的な出題形式は不明。
詳しく見ていきましょう。
9~7級の新設(これまでの最高級は6級。更にその上に、3つの級が新設される)。
HSK受験をお考えの方の中には、「新HSK」になる前に受験しておいた方がいいとか、変更後の試験の方が得ではないかとか色々気にされた方もいたと思います(もちろんHSKの変更自体ご存じない方が大半だったと思いますが)。しかし、6級以下の級の試験については、当面変更がないことが発表されましたので、それらの心配はなくなりました。
これまでの「6級制」が「9級制」に変更になります。同時に「3つの大分類の級(クラス、カテゴリー)」が設けられ、9つの級が3つずつそれぞれ「高級」、「中級」、「初級」に振り分けられることになりました。
高級水平(※1) | 9~7級 |
中級水平 | 6~4級 |
初級水平 | 3~1級 |
(※1) 「高级」は上級、「水平」はレベル、という意味。
これまでは、6級が「高級水平」、5~4級が「中・初級水平」、3級が「基礎」(2・1級は分類なし)という言い方をされたり、このような「クラス分け」がそもそもされないことが一般的(ただ単に級だけを言う)でした。或いは、それぞれの中国語の教育機関や教育者が独自の見解や根拠・感覚でHSKの各級を「クラス」分けしてきましたが、今回の変更で正式に3つの分類が定義され、既存の6級以下の級は中級と初級にそれぞれ分類されました。
👉 HSK9~7級の試験は、共通の1つの試験問題で行われ、成績(スコア)に基づいて級分けされる
中国語で ‟一卷三级形式”、つまり、1つの試験問題(共通の試験問題)で試験が行われ、成績(スコア)に基づいて級を決定する(級分けする)方式で行われます(現行の6級以下の試験は、級ごとに試験問題も申込も用意されており、分かれています)。
今回の中国側の「HSK改革」で強く意識されたのが、CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)。上級、中級、初級という「3つのカテゴリー」分けや「9級制」もこれを意識し、これに基準を合わせて、難易度の設定等が行われました(但し、6級以下の各級の難易度について、CEFRの「どのレベルに相当するか、位置づけられるか」を巡って中国側の主張とヨーロッパ側の主張に意見の相違があります)。
[※ CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠): 外国語の運用能力を、言語の枠や国境を越えて同一の基準で測ることができる国際的な指標]
● 6級以下の試験の現状維持(当面の間)について
「新HSK」は、全ての級について、新しい指針が示され、問題作成が見直される(新基準、新規定が導入される)ことが決められています
が、一方で段階を踏んで変更作業が行われていくことも、後から決められ、当面は 「9~7級の設置」のみが行われることになりました。
6級以下の試験の現状維持について、中国側の発表は、だいたい以下のような内容です(訳はだいぶいい加減です。細かい誤訳はお許し下さい)。
- 「当面の間調整は行わず、試験の『有効性』や試験内容、試験で『参照』(使用)される語彙や問題形式に変更はなく、引続き安定して実施される」
- 「受験済みの成績や取得した資格はこれまで通り有効」
- 「HSK6~1級用に編集・開発されてきた教材やコースは引続き使用可能」
- 「今後3~5年で、6級以下の級について(色々考慮したり順守したりしながら)、徐々に適度に調整が行われる」
「今後3~5年」と言うと、今2021年(本記事を最初に書いた時点。その後日付を更新しています)ですから、
「2024~2026年の間」あるいは「2024~2026年までに」
のどちらかになります(どちらとも取れます)。とりあえず
当面は現状維持、いずれ徐々に調整・変更が行われていくようです。
遅くとも6級以下の調整・変更が行われる時には、日本でも間違いなく「新HSK」への切り替えが行われるでしょう。中国が「新HSK」に移行し、同じ級の試験を、中国以外の国が旧形式で行っている状況は普通考えられませんから。
↓↓↓ 汉考国际CTI 2021年4月21日(先ほどと同じリンクです)
https://mp.weixin.qq.com/s/JmWirdtSOMK4GenuVQLx7w
「新HSK」では、『スピーキング』、『翻訳』能力を測る問題が導入される可能性あり
「9~7級の設置」が中国以外のHSK開催各国で同時に始まるか、遅れて導入されるか、導入自体されるのか、現時点では全く不明です。理由は、情報がないことに尽きますが、一方で導入作業、移行作業が大変であることも予想されます。それは、「新HSK」が、「スピーキング」と「翻訳」能力を新たに測ることが方針として打ち出されているからです。
中国教育部の「新HSK」の方針では、
👉 「聴く、話す、読む、書く、翻訳」の5技能の力が「新HSK」で評価される(求められる)
ことが定められています。
- リスニング(聴く、听)
- スピーキング(話す、说)
- リーディング(読む、读)
- ライティング(書く、写)
- 翻訳(译)
の5技能です。
6級以下の試験問題は当面変更なしなので、これらは当面、新設の9~7級に限った話です(5年以内には、6級以下にも適用?)。
これまでの試験(=現行のHSK)では、級によって試験項目が異なり、以下のような形で実施されています。
6~4級 | リスニング、リーディング、ライティング(3種類) |
3~1級 | リスニング、リーディング(2種類) |
※ リーディング : 読解、
ライティング : 作文
何と言っても目玉は、
スピーキングと翻訳能力を測る方法がどのようになるか、
でしょう。
これまでの試験(=現行のHSK)では、 「スピーキング」(話す)、「翻訳」の2技能の力を測る問題はありませんでした。これがどのような形で実力を測るのか。独立した問題形式や試験方法が登場するのか、或いは2つ以上の技能を同時に測る複合形式の問題になるのか。運用のしやすさを重視すれば、問題や採点の質が落ちかねません。問題や採点の質を重視すれば運用が難しくなるでしょう。「新HSK」がどちらを重視し、どのような形に落ち着くか。それにより、日本をはじめ中国以外の国での「9~7級設置」の有無、設置の時期にも関わってくるでしょう。
細かいところで「3級以下で作文問題が登場するのか(いずれ6級以下の変更が行われる時に)」という注目点もあります。これまでライティング(書く)問題のなかった3~1級で、「作文」、「スピーキング」、「翻訳」問題(または試験)が導入されるのか注目です。
●スピーキング問題について
現在HSKには、6~1級まで級に関わらず、スピーキング能力を測る問題はありません。
HSKの弟分にあたる“HSKK” (汉语水平口语考试)という会話試験(口頭試験)があります。運営者(運営機関)は同じですが、基本的にHSKとは全く別の試験として行われています。「高級」「中級」「初級」という3つの級があり、HSK本体の級との関わりはありません。HSKに、スピーキング力を測定する問題が無い分、HSKKがその代わりの役割を担っています。今後、「新HSK」でスピーキング力を十分に測る問題が導入されていけば、HSKKは消えていくことになるかもしれません。一方、HSKのスピーキングの問題が、断片的な導入にとどまれば、HSKKは残り、引き続き機能することになるでしょう。
●翻訳問題について
普通に考えて、「中国語の文章を外国語に翻訳する」問題のことだと思いますが、まさか、「外国語を中国語に訳す」問題ではないと思いますが、どうでしょうか。
中国語を外国語に翻訳する問題なら、まず中国語の文章が問題として出されて、それを使用可能な言語(HSK運営側が予め指定した言語)の中から選択し(例えば、日本人なら日本語を選択し)、「問題」の中国語の文章を「選択した言語」に翻訳することになるでしょう(選択肢に日本語がなかったりして...)。いずれにしても、かなり特殊な試験なので、外国語の採点官(或いは問題作成者)や採点方法を準備し、基準を維持して安定した運用を続ける難しさを考えると、6級以下の級でどこまでこの「翻訳問題」が導入されるのか。また中国以外の国でこの「翻訳問題」を実施するにも規模に限界があるでしょう。準備する言語数にも増やせる限度があるでしょう(英語、日本語など何か国語まで用意するのか)。よっぽどはじめから、「選択式」にしたり問題を簡単にするなどすれば話は別ですが、それでは別の問題が発生しますし、これからHSKや中国語学習者を世界的に広めたい中国側としては、この「翻訳問題の導入」は、上手くやらないと大変な手間ですので、逆に足かせになるというか、HSKの広がりにブレーキをかけてしまうことにもなりかねません(受験者数を絞る、結果発表まで時間がかかる、採点官を増やし過ぎることによる採点の質の低下など種々の問題が発生する…)。これまでも「作文問題」はありましたが、「翻訳問題」となると、中国語の領域を出て、外国語が絡んできますので、その運用の難しさは比になりません。
9~1級まで全ての級について、5技能それぞれの「求められる能力」の指針が、新方針と同時に決められ、発表されています。はたからそれを見ると2級でも1級でも「翻訳問題の導入」があるんだな、或いはそれに準じた「指針で求められる翻訳能力を測ることのできる何らかの新問題形式の導入」が行われるんだな、と思えます。果たして6級以下でも翻訳問題は導入されるのでしょうか。何か他国や他の言語試験ではまだ見られないような画期的なシステムややり方でも導入されるのでしょうか。
その他
今回の「新HSK」導入に関わる一連の「HSK改革」では、他にも「4つの要素」やら「3つの評価分野」やらが定められ、先述の「5つの技能(聴く、話す、読む、書く、翻訳)」と合わせて、方針が打ち出されています。
詳しい説明は、ここでは省略します。試験問題が世にまだ出てきていない段階で、抽象的な方針の言葉を元に推測を巡らせても仕方ないと思いますので。
方針と実際の運用が必ずしも一致するとは限らないのはどの世界でも同じですので。この「新HSK」導入もはじめ政府(中国教育部)が2021年3月に新HSKに関連する方針を「(2021年)7月1日施行」と打ち出せば、それから1か月ぐらいして、政府の担当者も出席する別のシンポジウムで、「試験変更は7月1日に間に合わないので2022年3月スタートとする」ことが発表されたり。はじめからそのつもりだったのかわかりませんが、説明何もなしで「HSKを9級制にする」などを含めた方針を「(2021年)7月1日に施行」、と政府が発表すれば、受験者も教育者もそりゃ誰だって「(2021年)7月1日からHSKが変わる」と思っちゃいますよね。準備不足、思慮不足で、自分たちが発表した際の世間の反応を政府が予想できなかったのか、それとも、実は政府は7月1日に始める予定だったが、発表した後、「準備が間に合わない」ことがわかって慌てて、スタート時期を変更したのか。わかりませんが。
いずれにせよ、発表された内容が、どこまで実現するのかわかりませんので深追いはやめておこうと思います。ただ、先行して導入される9~7級の試験には、これらが反映されて問題作りの前提になると思いますので、一応、先程述べた 「4つの要素」と「3つの評価分野」を紹介だけしておきます。
- 「4つの要素」 : 音節、漢字、語彙(単語量)、文法
- 「3つの評価分野」 : 音声コミュニケーション能力、トピックタスク内容、言語定量指標。
※「5つの技能」と合わせて「3+5」という言い方も今回されています。
「4つの要素」では、 音節、漢字、語彙(単語量)、文法の力が見られるようですね。これらの勉強に力を入れて損はないでしょう。ただ、必ずしも問題形式を指示している訳ではないですのでご注意ください。長文問題とかいろいろな問題を通して、これらの力が重視されるよということです。出題者側が特にその部分を重視するということであり、学習者の皆さんはこれだけ勉強すれば良いというものではないでしょう。
「3つの評価分野」では、 コミュニケーション能力でなく、音声コミュニケーション能力とあるので、相手の意図を理解する意思疎通力というよりも、「音声」つまり、正確な発音や聞き取りが重視されるような印象です。トピックタスク内容というのは気になります。環境問題とか、科学技術分野とか、最新の中国の状況とか、文化・歴史とか様々なトピックへの理解度や精通度を試されるのでしょうか(不明です)。
推測しない、なんて書いておきながら、ついついしてしまいましたが(^^;)、9~7級の試験内容の情報が世に出るのを待ちましょう。
まとめ
◆ 新HSKへの変更時期 | 不明 |
【その他の不明点】 | 中国以外の国で、中国と同時に試験が変更(導入)されるのか |
◆ 新HSKの変更のポイント 1⃣ | |
段階を踏んで変更 | |
① 変更第1段階 | ・9~7級の新設 |
・「3カテゴリー9級制」への変更 | |
※6級~1級は当面の間変更なし | |
② 変更第2段階 | ・6級~1級の変更 |
(①から5年以内) |
◆ 新HSKの変更のポイント2⃣ | |
①5技能の能力を判定 | (聴く、話す、読む、書く、翻訳) |
スピーキング・翻訳試験の導入か | →まずは新設の9~7級の問題に注目 |
※6級~1級の変更は詳細不明 | |
②4要素、3評価分野を判定 | (音節、漢字、語彙、文法) |
(音声コミュニケーション能力等) | |
③4要素全対象項目を級別に指定 | (音節、漢字、語彙、文法) |
受験国、受験級別・「新HSK」導入に伴う影響
受験国 | 受験級 | 「新HSK」導入に伴う影響 |
中国以外の国々 | 6級以下 | 当面なし |
9~7級 | 導入されるか不明(→導入自体されるかも不明 | |
導入されない場合は、中国に受験しに行くしか選択肢がない?) | ||
中国 | 6級以下 | 当面なし |
9~7級 | 導入されるが遅れている、導入時期不明 |
最後までご覧いただきありがとうございました。また新しい情報を入手次第、お知らせさせて頂きます。